閉院費用、想定より高かった院長へ|原状回復・解雇・在庫処分の実際

閉院費用、想定より高かった院長へ|原状回復・解雇・在庫処分の実際

クリニックの閉院費用、調べてみたら想定の倍近かった、そんな経験をされた院長は、決して少なくありません。原状回復の工事費、スタッフへの解雇予告手当、医薬品や医療機器の在庫処分まで、閉院にはさまざまなコストが重なります。

この記事では、閉院を検討している院長が実際に直面しやすい費用の内訳と、事前に知っておくことで無駄な出費を抑えられるポイントを整理しています。「思ったより高くついた」と後悔しないための、具体的な準備の話をします。

📑 目次(クリックで開閉)
  1. 第1章 閉院費用の全体像:何にいくらかかるのか
    1. 1-1 費用の主要4カテゴリと総額目安
    2. 1-2 費用が膨らみやすいクリニックの特徴
    3. 1-3 閉院費用を左右する「タイミング」の問題
  2. 第2章 費用項目の詳細:原状回復・解雇・在庫処分
    1. 2-1 原状回復工事費:テナント条件で大きく変わる
    2. 2-2 スタッフ解雇にかかる費用:解雇予告手当と退職金
    3. 2-3 医薬品・医療機器の処分費用:廃棄か売却か
  3. 第3章 行政手続きと届出期限:見落とすと罰則リスク
    1. 3-1 保健所・地方厚生局への届出と期限
    2. 3-2 医療法人解散・清算に必要な手続き
    3. 3-3 患者への説明義務と診療録の保管義務
  4. 第4章 閉院より費用を抑えられる選択肢:承継・M&Aとの比較
    1. 4-1 閉院とM&Aの費用・手残り比較
    2. 4-2 承継・M&Aが現実的な選択肢になる条件
    3. 4-3 「閉院か承継か」を判断する前に確認すべきこと

第1章 閉院費用の全体像:何にいくらかかるのか

「閉院するだけなのに、なぜこんなにお金がかかるのか」と驚く院長は少なくありません。クリニックの閉院費用は一か所に集中するのではなく、複数のカテゴリに分散して発生します。全体像を先に把握しておくかどうかで、手元に残るキャッシュが大きく変わってきます。

1-1 費用の主要4カテゴリと総額目安

閉院に伴う費用は、大きく4つのカテゴリに整理できます。それぞれの目安を下の表にまとめました。

カテゴリ主な内訳費用目安
①原状回復・内装撤去医療機器の撤去、内装解体、産業廃棄物処理200万〜800万円
②人件費・解雇関連退職金、解雇予告手当、有給消化コスト100万〜500万円
③在庫・医療廃棄物処分薬品・消耗品の廃棄、医療廃棄物処理費用20万〜100万円
④各種手続き・専門家費用行政届出、弁護士・税理士・社労士報酬30万〜150万円

合計すると、一般的な規模のクリニックでも350万〜1,500万円程度の閉院費用が発生するケースが多いです。テナント面積が広いほど、また在籍スタッフが多いほど、上限に近づく傾向があります。

1-2 費用が膨らみやすいクリニックの特徴

同じ規模でも、閉院費用に倍近い差が出ることがあります。費用が膨らみやすいクリニックには、いくつか共通した特徴があります。

  • テナント契約に「原状回復義務」が広範囲に定められている:床・天井・配管まで含む原状回復を求められると、内装撤去だけで500万円を超えることがあります。
  • 勤続年数の長いスタッフが複数いる:退職金規程がある場合、勤続10年超のスタッフが3名いれば退職金だけで200万円以上になることも珍しくありません。
  • 医療機器をリースではなく購入している:買取機器は廃棄・売却の手配が必要で、処分費用が別途かかります。リース機器はリース会社との交渉が必要です。
  • 薬品・消耗品の在庫が大量に残っている:閉院直前まで発注を続けていると、廃棄コストが跳ね上がります。

これらの要素が重なると、当初の見積もりより300万〜400万円上振れするケースも現実にあります。

1-3 閉院費用を左右する「タイミング」の問題

閉院の決断を「いつ」するかは、費用総額に直結します。特に影響が大きいのは次の3点です。

  • テナント契約の更新直後に閉院を決めると、賃料の二重払いが発生しやすい:更新後すぐに退去しても、違約金や残存賃料が発生する契約が多いです。
  • 解雇予告は30日前が原則:労働基準法第20条により、30日前までに予告しない場合は解雇予告手当(平均賃金の30日分)を支払う必要があります。スタッフ数が多いほど、この判断の遅れが直接コストになります。(出典: 厚生労働省|労働基準法第20条)
  • 在庫の発注停止時期が遅れると廃棄費用が増える:閉院の6〜8週間前には発注量を絞り始めるのが現実的です。

閉院費用は「閉める瞬間」だけでなく、その数か月前の意思決定の積み重ねで決まります。早い段階で全体像を把握し、逆算して動くことが費用を抑える唯一の方法です。

第2章 費用項目の詳細:原状回復・解雇・在庫処分

閉院費用の中でも「想定より高かった」と後から気づくのが、原状回復・スタッフ解雇・医薬品処分の3項目です。それぞれ金額の振れ幅が大きく、事前に条件を確認しておくかどうかで、最終的な出費が数百万円単位で変わってくることもあります。

2-1 原状回復工事費:テナント条件で大きく変わる

テナント物件でクリニックを運営している場合、退去時には「借りた時の状態に戻す」原状回復工事が必要です。ただし、その範囲は賃貸借契約書の文言によって大きく異なります。

一般的な内科クリニック(床面積100〜150㎡)の場合、原状回復工事費の目安はおよそ200万〜500万円程度。ただし、医療用配管・給排水設備・電気容量の増設など、開業時に大規模な内装工事を行っていた場合は、600万円を超えるケースも珍しくありません。

  • 契約書に「スケルトン返し」と明記されている場合、内装をすべて撤去する必要があり、費用が跳ね上がる
  • 「通常損耗は貸主負担」と定められているかどうかで、借主の負担範囲が変わる
  • 医療機器の固定アンカーや鉛遮蔽壁の撤去は、一般の内装業者では対応できないことがある

閉院を決めた段階で、まず契約書の原状回復条項を確認し、不明点は貸主と早めに協議しておくことが現実的な対処です。

2-2 スタッフ解雇にかかる費用:解雇予告手当と退職金

閉院に伴うスタッフの雇用終了は「整理解雇」に該当します。労働基準法第20条により、30日前までに解雇予告を行わない場合は、30日分以上の平均賃金(解雇予告手当)を支払う義務があります。

厚生労働省は、労働者を解雇する場合には少なくとも30日前の予告、または30日分以上の平均賃金(解雇予告手当)の支払いが必要と定めています。

出典: 厚生労働省|[PDF] 労働基準法で定める解雇手続を行なうこ

(出典: 厚生労働省|「解雇に関するルール」)

たとえば、月給30万円のスタッフ5名を予告なしに解雇する場合、解雇予告手当だけで約150万円が必要になります。実務上は、閉院日から逆算して「30日前通知」のスケジュールを組むことで、この費用を回避できます。

退職金については、就業規則に退職金規程がある場合は支給義務が生じます。勤続10年以上のスタッフが複数いるクリニックでは、退職金総額が200万〜400万円規模になることもあります。退職金規程の有無と積立状況は、閉院計画の初期段階で必ず確認してください。

2-3 医薬品・医療機器の処分費用:廃棄か売却か

在庫の医薬品は、原則として医薬品卸業者への返品か、産業廃棄物として適正処分する必要があります。廃棄の場合は産業廃棄物処理費用が発生し、医薬品の量にもよりますが数万〜20万円程度が目安です。

医療機器については、売却・下取りという選択肢があります。超音波診断装置や内視鏡など比較的新しい機器は、医療機器ディーラーや買取業者に査定を依頼することで、処分費用の一部を回収できる場合があります。一方、耐用年数を過ぎた機器や特殊仕様の機器は買取不可となることも多く、その場合は廃棄費用が別途かかります。

  • 医薬品の廃棄:産業廃棄物処理業者に依頼(麻薬・向精神薬は保健所への届出が必要)
  • 医療機器の売却:閉院の6〜12か月前から査定依頼を始めると値段がつきやすい
  • レントゲン装置など放射線機器は、廃棄前に放射線障害防止法に基づく手続きが必要

第3章 行政手続きと届出期限:見落とすと罰則リスク

閉院の費用面が見えてきたとき、次に立ちはだかるのが行政手続きの壁です。届出先は保健所・地方厚生局・都道府県など複数にわたり、それぞれに期限が設けられています。「気づいたら期限を過ぎていた」では済まないケースもあるため、スケジュール全体を早めに把握しておきたいところです。

3-1 保健所・地方厚生局への届出と期限

診療所を廃止した場合、医療法第9条に基づき、廃止後10日以内に管轄の保健所へ廃止届を提出する義務があります。この期限を過ぎると、医療法第87条により30万円以下の罰金が科される可能性があります。

また、保険診療を行っていた場合は、地方厚生局への保険医療機関の指定返上手続きも必要です。こちらは廃止予定日の1か月前までに申請するのが一般的な運用です。保険医個人の登録は継続できますが、機関としての指定は別途返上が必要な点を混同しないよう注意してください。

  • 診療所廃止届:廃止後10日以内/提出先は管轄保健所
  • 保険医療機関指定返上:廃止予定日の1か月前を目安に地方厚生局へ申請
  • 麻薬施用者免許の返納:麻薬及び向精神薬取締法に基づき、廃止後15日以内に都道府県知事へ届出

出典: 厚生労働省|医療法(第9条・第87条)、麻薬及び向精神薬取締法(第10条)

3-2 医療法人解散・清算に必要な手続き

個人クリニックの廃止と、医療法人そのものを解散するのは別の話です。法人格を残したまま診療所だけ閉じることも可能ですが、法人を解散する場合は手続きが一段と複雑になります。

医療法人の解散には、社員総会での特別決議(出席社員の3分の2以上の賛成)を経たうえで、都道府県知事の認可が必要です。認可申請から認可取得まで通常3〜6か月かかることを想定しておいてください。その後、清算人を選任し、債務の弁済・残余財産の処分を経て清算結了登記を行います。

  • ①社員総会で解散決議(特別決議)
  • ②都道府県知事へ解散認可申請
  • ③認可取得後、清算人選任・登記
  • ④債権申出の公告(官報掲載、2か月以上)
  • ⑤残余財産処分・清算結了登記

出典: 厚生労働省|医療法(第55条・第56条)

3-3 患者への説明義務と診療録の保管義務

閉院を決めたら、患者への告知タイミングも重要です。法律上の明文規定はないものの、継続的な治療が必要な患者には遅くとも閉院3か月前には書面や院内掲示で通知し、紹介先の手配まで行うことが医師としての説明責任を果たすうえで現実的な目安となります。

診療録(カルテ)の保管義務については、医師法第24条により診療完結の日から5年間の保存が義務付けられています。閉院後も自身で保管するか、電子カルテであれば適切なデータ管理業者に委託する方法があります。保管コストは業者委託の場合、段ボール1箱あたり月額数百円程度が目安です。

出典: 厚生労働省|医師法(第24条)

第4章 閉院より費用を抑えられる選択肢:承継・M&Aとの比較

閉院にかかる費用の全体像を把握したとき、「もう少し早く別の選択肢を検討していれば」と感じる院長は少なくありません。承継やM&Aは、費用負担を抑えながら患者・スタッフへの影響も最小化できる可能性がある出口戦略です。

4-1 閉院とM&Aの費用・手残り比較

閉院を選んだ場合、原状回復・退職金・在庫処分などで総額1,000万〜3,000万円超の支出が発生するケースは珍しくありません。一方、M&Aや第三者承継では、譲渡対価として数百万〜数千万円を受け取れる場合があります。同じ「クリニックを閉じる」という結果でも、手残りの差は大きく変わります。

項目閉院(自己都合)M&A・第三者承継
原状回復費用500万〜1,500万円(支出)交渉次第で買主負担も可
退職金・解雇予告手当200万〜500万円以上(支出)雇用継続のためゼロになることも
医療機器・在庫処分ほぼ二束三文事業価値として評価される
譲渡対価なし数百万〜数千万円(規模による)
患者への影響転院先を自力で探す必要あり継続診療が可能

数字だけ見ても、閉院とM&Aでは数千万円規模の差が生まれることがあります。「閉院費用を払って終わる」か「対価を受け取って終わる」か、同じ出口でも、経済的な結果はまったく異なります。

4-2 承継・M&Aが現実的な選択肢になる条件

すべてのクリニックがM&Aに向いているわけではありません。買い手がつきやすいのは、次のような条件が揃っているケースです。

  • 患者数が一定数確保されており、レセプト単価が安定している
  • 立地が良好で、賃貸借契約の引き継ぎが可能
  • スタッフが継続雇用を希望している
  • 電子カルテなどの診療データが整理されている
  • 理事長の年齢が60代前半までで、引き継ぎ期間を確保できる

逆に、慢性的な赤字・スタッフの大量離職・設備の著しい老朽化がある場合は、買い手がつきにくくなります。ただし、赤字でなければ検討の余地はあります。「どうせ無理」と諦める前に、一度専門家に現状を見てもらうことが出発点です。

4-3 「閉院か承継か」を判断する前に確認すべきこと

判断を急ぐ前に、以下の3点を整理してみてください。この確認を省くと、後から「もっと早く動けばよかった」という後悔につながります。

  • 財務の実態を把握する:直近3期分の決算書と月次レセプトデータを手元に用意する。買い手はこの数字で判断します。
  • タイムラインを確認する:M&Aの成立には一般的に6か月〜1年以上かかります。閉院を考え始めた段階で動き出さないと、選択肢が閉院しか残らなくなります。
  • スタッフ・患者への影響を試算する:閉院の場合にかかる退職金・解雇予告手当の総額を先に計算しておく。この数字が承継検討の動機になることも多い。

クリニックの閉院費用を正確に把握することは、承継・M&Aという選択肢の価値を客観的に測るための基準にもなります。「費用がかかるから閉院」ではなく、「費用を比べたうえで最善の出口を選ぶ」という順序で考えてみてください。

よくある質問

クリニックの閉院費用は平均でどのくらいかかりますか?

内科系クリニックでは原状回復・人件費精算・在庫処分を合わせると、数百万〜1,000万円超になるケースも少なくありません。規模や契約条件によって大きく変わります。

閉院を決めてから実際に閉院するまでどのくらいの期間が必要ですか?

個人クリニックで最低3〜6ヶ月、医療法人の解散・清算を伴う場合は1年以上が目安です。行政手続きと患者への告知期間を見込んだ計画が欠かせません。

閉院費用を抑えるために最初にすべきことは何ですか?

テナント契約書の原状回復条項の確認と、スタッフの雇用形態の整理が最優先です。早期に専門家へ相談することで、不要な費用の発生を防ぎやすくなります。

第5章 承継・M&Aの個別相談

承継・M&Aを相談する

閉院の複雑な手続きを、構造から整理できる理由

混乱の「正体」を可視化するプロセスを持っている

閉院費用が想定を超える背景には、契約・労務・財務が絡み合った構造的な混乱があります。Millenniumは財務・人材・契約・リスクを「見える形」に整理するプロセスを体系化しており、どこに費用が発生しているのか、何が抜け漏れているのかを構造として把握します。感覚ではなく、全体像から閉院準備を進めることができます。

助言で終わらず、月次で実行まで伴走する体制

閉院には原状回復・スタッフ対応・在庫処分など、時期ごとに動くべきタスクが重なります。Millenniumは外部COOとして月次で伴走し、「誰が・何を・いつまでに」を管理しながら実行を支援します。コンサルティングにありがちな「提案だけして終わり」ではなく、現場レベルの進行管理まで担います。

院長・スタッフ・法人全体を俯瞰した設計ができる

閉院は院長個人の問題にとどまらず、配偶者・幹部・スタッフそれぞれへの影響を伴います。Millenniumは医療法人全体の役割と権限を整理した上で閉院プロセスを設計するため、関係者間の認識のズレや後からの費用増加を防ぐ土台をつくることができます。

この記事の運営元について

本記事はミレニアム株式会社が運営する情報メディアの記事です。医療法人コンサルティングに関する実務経験と専門知識をもとに、読者の意思決定に役立つ情報を提供しています。

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この記事を書いた人

ミレニアム株式会社 経営支援チーム

医療法人・クリニックを中心に、経営改善、組織設計、人材定着、財務改善、マーケティング支援を行う専門チームです。

院長・理事長への業務集中、スタッフ退職、採用難、評価制度の未整備、事業承継、集患・広報など、医療機関に特有の経営課題に対し、現場の実態と経営構造の両面から課題を整理し、改善策を提案しています。

本メディアの記事は、医療法人経営やクリニック運営に関する実務知見をもとに、経営者が意思決定しやすい情報提供を目的として監修しています。

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