クリニックの人件費率は、まず「何を人件費に含め、どの収益で割ったか」をそろえてから比較します。基本の形は、人件費÷対象となる収益×100です。ただし、給与だけなのか、賞与・法定福利費・役員報酬まで含むのかで値は変わります。比率が高いことだけで、人員削減や賃下げが必要とは判断できません。
分子と分母を、同じ期間・同じ範囲にそろえる
月次の損益資料を使うなら、同じ月の収益と人件費を対応させます。預金口座へ入った診療報酬の金額と、その月の発生ベースの人件費をそのまま割ると、入金時期のずれが混ざります。現金の見通しを知る目的なら、人件費率とは別に資金繰り表を作ります。
分子に含める科目は、会計資料の定義と分析目的に合わせ、毎回記録します。外注を増やした月に給与費だけが下がっても、同じ仕事にかかる総額が下がったとは限りません。
| 確認する範囲 | そろえる内容 |
|---|---|
| 対象期間 | 単月、累計、年次のどれか。収益と費用を同じ期間にする |
| 収益 | 医業収益等、分母に入れる科目。医業外の項目を混ぜない |
| 人件費 | 給与、賞与、法定福利費、退職給付等の範囲を明記 |
| 役員・院長 | 役員報酬や開設者分をどう扱うか |
| 外注 | 委託へ移した業務の費用を別欄で確認 |
計算例:比率の変化を、収益と人件費に分ける
次は計算方法を示す仮定例です。対象収益1,000万円、人件費400万円なら40%です。翌月、収益が900万円、人件費が400万円なら約44.4%になります。人件費が増えていなくても、収益の減少で比率が上がります。
一方、収益1,000万円、人件費450万円なら45%です。この場合は、増えた50万円が賞与の計上、増員、残業、保険料、役員報酬など、どの項目かを確認します。月ごとの計上差が大きい場合は、単月だけでなく同じ範囲の累計でも見てください。ここでの数値は望ましい水準を示すものではありません。
個人の診療所と医療法人を、比率だけで比べない
厚生労働省の医療経済実態調査は、個人立では開設者の報酬に相当する部分が給与費に含まれないことを説明しています。自院が法人なら、開設形態の違う集計の給与費率をそのまま目標にしないでください。
公表資料と比較するときは、調査回・対象年度、個人/法人、有床/無床、診療科、費用の定義を確認します。平均値は自院の適正配置を決める値ではありません。このページでは、条件の異なる平均を一つの「適正人件費率」にまとめていません。
配置を変える前に、仕事量と時間帯を見る
同じ人員数でも、診療時間帯、必要な資格、患者への対応、休暇・教育の体制で必要な配置は変わります。人数だけでなく、時間帯ごとの業務量と勤務時間を確認します。安全に必要な仕事を省いたり、記録外の労働に置き換えたりして比率を下げないようにします。
| 比率が上がったときの確認 | 資料の例 |
|---|---|
| 収益側の変化 | 診療日数、延べ患者数、診療構成、計上の範囲 |
| 費用側の変化 | 給与台帳、賞与の計上、残業時間、社会保険料 |
| 配置・稼働 | 勤務表、時間帯別の仕事、引き継ぎと教育の負担 |
| 費用の移し替え | 外注費、派遣等の費用、担当業務の変更 |
たとえば同じ時間帯に確認作業が重なるなら、すぐ増減員を決めず、仕事の順序や役割の重複を確認できます。配置の見直しは、本人の勤務条件や安全管理と合わせて検討し、個別の雇用条件変更は専門家へ確認してください。
人件費率だけで決めず、利益と資金を並べて判断する
比率が下がっても、引き継ぎの不足や残業の偏りが増えていれば改善とは言い切れません。対象業務、実施前の状態、変更内容、確認する指標を残します。収益の全体像はクリニックの収益構造の見方、現金の見通しは資金繰り表の作り方で分けて整理できます。
人件費の計算表、勤務表、月次収支がそろったら、経営診断で確認する資料と改善計画を参考に、どの条件が課題かをまとめてください。
財務と人員配置・役割の関係を横断して確認したい方は、経営構造診断の内容・進め方をご覧ください。相談・見積を経て契約内容を確認する流れです。









