クリニックの損益分岐点売上は、一定の費用構造を仮定して、利益がゼロになる売上を試算したものです。基本式は「固定費÷(1-変動費率)」です。延べ患者数へ換算するには、さらに同じ期間・範囲の平均単価と診療日数が必要になります。計算結果だけで人員や診療量を決めず、前提と実施できる体制を確かめます。
固定費・変動費を、同じ月の資料から分ける
固定費は、試算する売上の範囲で短期には大きく変わらない費用、変動費は売上等の増減に応じて変わる費用です。家賃などの固定的な費用と、診療内容に応じた材料費等を分けます。ただし科目名だけで一律に分類せず、契約や実際の増減を確認してください。
人件費も、現在の体制で固定的に発生する分と、診療量・時間によって変わる分があり得ます。人件費をゼロと置いたり、個人立の院長の生活費・報酬相当を無条件に法人と同じ扱いにしたりすると、意思決定に必要な条件が欠けます。
計算は、変動費率→限界利益率→分岐点売上の順に進める
| 段階 | 式 | 月次の仮定例 |
|---|---|---|
| 変動費率 | 変動費÷売上 | 変動費200万円÷売上1,000万円=20% |
| 限界利益率 | 1-変動費率 | 1-0.20=80% |
| 損益分岐点売上 | 固定費÷限界利益率 | 固定費600万円÷0.80=750万円 |
この例では、750万円の売上に対して変動費150万円と固定費600万円が発生し、利益がゼロになります。現在の売上や費用をそのまま移すのではなく、売上が変わっても変動費率が一定と仮定できる範囲の試算です。変動費率が100%以上になるなど限界利益率が正でない場合は、この通常の形で分岐点を求められません。
必要な延べ患者数と、一日当たりの人数へ換算する
売上がすべて対象の診療によるものと仮定し、一回の診療当たり平均単価が8,000円なら、750万円÷8,000円=937.5回、切り上げて月938回です。診療日20日なら、937.5÷20=46.875回で、一日約47回が計算上の目安です。
ここでの患者数は延べの受診回数です。実人数ではありません。また単価は仮定であり、医院の標準や目標を示すものではありません。自費、検査、その他収入などが混ざる場合は、どの収益を患者数へ換算しているかを分けます。
条件を変えて、どこに影響が出るかを見る
| 条件(仮定) | 分岐点売上 | 平均単価8,000円での月間延べ回数 |
|---|---|---|
| 固定費600万円・変動費率20% | 750万円 | 938回(切り上げ) |
| 固定費660万円・変動費率20% | 825万円 | 1,032回(切り上げ) |
| 固定費600万円・変動費率25% | 800万円 | 1,000回 |
固定費が増える場合だけでなく、材料構成や診療内容で変動費率が変わる場合も試します。体制が変われば固定費も段階的に増えるため、計算した人数をそのまま現在の人員で受け入れられるとは限りません。必要な診療時間、資格、安全な対応、設備の能力を並べて確認します。
Excel等で使う、入力欄と数式の例
B2を月間固定費、B3を変動費率、B4を平均単価、B5を診療日数とするなら、分岐点売上は「=B2/(1-B3)」、月間延べ回数は「=ROUNDUP(B2/(1-B3)/B4,0)」、一日当たりの延べ回数は「=B2/(1-B3)/B4/B5」です。B3は20ではなく20%または0.20で入力します。B4・B5がゼロや空欄のまま計算しないでください。
この入力例は簡易試算です。端数を切り上げた月間回数と一日換算の丸め方は区別し、比較時は同じ方法にそろえます。資料の期間や分母を変えたときは、計算条件も一緒に記録します。
損益の分岐点と、資金が足りる売上は同じではない
利益ゼロの計算には、借入元本返済などの現金支出がそのまま費用として入るわけではありません。利益がゼロでも現金が減ることがあるため、資金繰り表を並べて確認します。人件費の範囲は人件費率の計算と比較条件でそろえられます。
計算後は、増収だけで埋めると決めず、収益悪化時の確認手順から、支払期限や費用・体制を確かめます。経営診断で確認する資料では、数字と現場の状況をつなげる準備を整理しています。
試算の前提や、財務と体制の関係を整理したい方は、経営構造診断の内容・進め方をご覧ください。相談・見積を経て契約内容を確認する流れです。









