MRI稼働率が見えず利益が消えていた脳神経外科が、月次管理で経営判断を取り戻した話

医療法人の外部COO事例イメージ|MRI稼働率が見えず利益が消えていた脳神経外科が、月次管理で経営判断を取り戻した話

MRIを導入したのに、利益が残らない。そんな状況が続いているとしたら、機器の問題ではなく、「回す仕組み」が抜けている可能性がある。

地方都市で脳神経外科・神経内科を運営する医療法人の院長は、ある夜、手元の数字をじっと見つめていた。売上は横ばい。なのに利益率は、開業当初より確実に下がっている。「どこで消えているのか、正直わからない」。そう口にしたのは、決算書を前にした夜のことだ。

検査の稼働状況は現場スタッフの感覚任せ。月次の業績数字は決算期にならないと整理されない。部門ごとの採算など、考えたこともなかった。追加投資も、検査単価の見直しも、「数字が見えてから」と先送りにしてきた。でも、その「数字が見える日」は、いつまでも来ない。

高額医療機器を持つクリニックが、稼働率の把握なしに経営判断を続けるとき、何が起きるか。この記事では、その問いに向き合った一つの事例を、具体的な経緯とともに紹介する。

相談に来られた頃(Before)

診察が終わった後の院長室は、いつも静かすぎる。

最後の患者が帰り、スタッフが退勤し、廊下の電気が落ちる。院長は椅子に深く沈んだまま、デスクの上に広げた紙を見ている。先月の外来患者数。MRIの予約件数。でも、そこから何が読み取れるのか、正直なところよく分からない。

「なんか、数字は並んでるんですよ。でも、結局何が問題なのかが見えなくて」

MRIを導入したのは4年前のことだ。脳神経外科として地域に必要な設備だという確信があったし、近隣の内科や整形外科からの紹介も増えると期待していた。導入費用は大きかったが、稼働すれば回収できる、そう考えていた。

ところが今、その機器が週に何件動いているのか、院長は正確に把握していない。スタッフに聞けば「だいたい埋まってます」と返ってくる。空き枠がどれくらいあるか、紹介元の医療機関ごとに件数がどう変化しているか、誰も集計していない。現場が回っているように見えるから、それ以上は踏み込めない。

減価償却費と保守契約費は、毎月、確実に出ていく。金額は変わらない。売上が少し落ちた月も、患者が増えた月も、固定費はそこにある。年度末に税理士から届く決算書を見るたびに、利益率の数字が前年より少し下がっている。

「おかしいとは思ってたんです。でも、どこがおかしいのかが分からない」

外来、検査、リハビリ。それぞれが今月いくら稼いで、いくらコストがかかっているのか。部門ごとの採算を出そうとしたことはある。でも月次でまとめる仕組みがなく、結局は決算のタイミングまで数字が整理されない。判断したくても、判断の材料が揃うのは半年後、1年後になる。

検査単価の見直しも、追加の設備投資も、紹介元への営業強化も、頭の中にはある。ただ、今の数字が正しいのかどうか分からない状態で動くのが怖い。失敗したときの責任は自分一人が取ることになる。相談できる相手がいない。

院長は紙をファイルに戻し、電気を消す。駐車場に出ると、夜の空気が冷たい。

「機器を買うところまでは一生懸命考えた。でも、買った後のことは、正直、あまり考えてなかったかもしれない」

その言葉を口にしたのは、初回の面談の席だった。声に、力はない。ただ、事実を確認するような、静かな口調だった。

なぜ、私たちを選んだのか

最初に声をかけたのは、知人の紹介で繋がった医療経営コンサルだった。

打ち合わせは二度。先方は丁寧に話を聞き、数週間後に提案書を送ってきた。内容は悪くない。検査稼働率の改善策、紹介元への営業提案、単価見直しの方向性。きれいにまとまっている。

ただ、読み終えた院長の感想はひとつだった。「で、これ、誰がやるんですか」

提案書の実行は、院長自身に委ねられている。月次の数字を拾うのも、紹介先へのアプローチも、検査枠の組み直しも、すべて現場の仕事として戻ってくる。診療の合間にそれをこなす時間も、判断する余裕も、今の院長にはない。提案書は机の引き出しに入り、三ヶ月が過ぎる。

顧問税理士への相談も試みた。決算書の読み方は教えてもらえる。ただ、MRI稼働率と検査単価の関係、部門別採算の構造、保険点数の収益への影響、こういった医療機関特有の収益構造は、税務の専門家が扱う領域ではない。「先生、売上は悪くないですよ」という言葉に、安心より違和感を覚えるようになっていた。

Millenniumを紹介されたのは、同じ地域で開業している別の院長からだ。「提案だけじゃなくて、毎月一緒に数字を見てくれる」という一言が引っかかった。

初回の面談で、院長は率直に聞く。「保険点数の仕組みや、検査部門の採算構造、ちゃんと分かった上で話せますか」

返ってきたのは、具体的な問い返しだった。外来・検査・リハビリの部門別でどこの数字が見えていないか。稼働率は何を分母にして測るか。紹介元ごとの検査件数は追えているか。

「助言だけで終わらない」という言葉は、多くのコンサルが使う。ただ、この問い返しの中身が、院長には違って聞こえた。医療機関の収益構造を理解した上で、毎月の数字を一緒に見て、その月のうちに判断を出す体制を作る。それが、院長の孤独な意思決定を補完するものとして機能するかどうか。面談を終えて、院長は契約を決めた。

私たちがやったこと(時系列)

1か月目は、まず「数字を分解する」ことから始めた。

外来・検査・リハビリの3部門を切り分け、それぞれの売上・原価・人件費・減価償却費を並べる。院長がこれまで見ていたのは法人全体の月次売上だけで、部門ごとの収支は決算書が出るまで誰にも分からない状態だ。MRIの減価償却費と保守契約費を合算すると、年間でどれほどの固定コストになるか。その数字を検査収益と並べると、稼働率が低い月には検査部門単体で赤字になっている期間があることが初めて見えてくる。

院長は資料を黙って見ている。しばらくして、「感覚的には分かってたんですけど、こうして並べられると、ちょっと違いますね」と口を開く。感覚と数字の間にある距離。それがこの法人の意思決定を止めていた。

2か月目に入ると、検査予約枠の実態調査に移った。過去6か月分の予約データを引き出し、時間帯別・曜日別に空き枠の発生パターンを整理する。すると、火曜と木曜の午後に空き枠が集中していることが分かった。一方で、月曜と水曜の午前は数週間先まで埋まっている。需要の偏りが構造的に起きているのに、枠の配分は開院当初のままで一度も見直されていない。

同時に、紹介元医療機関の状況も整理した。近隣のクリニック・病院を地図上に落とし、過去1年の紹介件数を医療機関ごとに集計する。紹介が多い医療機関は3か所に集中しており、半径5km圏内に連携実績がほとんどない医療機関が複数あることも浮かび上がった。「こんなに近くにあったのか」と院長が地図を見て言う。知らなかったのではなく、整理する機会がなかった。

3か月目は、枠の再設計と紹介動線の整備を並行して進めた。火曜・木曜の午後枠を近隣クリニックからの紹介予約専用として確保し、直接予約と紹介予約の受け方を分ける。受付スタッフが毎朝確認できるよう、予約状況を日次で記録する簡易管理シートも導入した。Excelで十分な内容だが、「今日の空き枠が何件あるか」が開院前に把握できる仕組みは、それまで存在していなかった。

紹介先への案内資料も作り直した。MRIの対応疾患・撮影時間・予約の取り方を1枚にまとめ、連絡フローを明記する。既存の紹介元3か所には院長が直接説明し、未連携の医療機関には資料を送付した。

この月の終わりに院長が言ったのは、「機器を買った後の『回す仕組み』が抜けていたことに気づかされた」という一言だ。設備投資の判断よりも、その後の運用設計こそが収益を左右する。気づきとしては単純だが、それが数字として目の前に置かれたとき、重みが変わる。

5か月目以降は、稼働率・検査単価・人件費率・部門別利益率を一枚に収めた月次ダッシュボードを設計し、院長との月次レビュー会議を定例化した。会議の冒頭で「今月追う指標」を確認し、翌月に結果を照合するサイクルを繰り返す。投資判断も検査枠の調整も、その月の数字を見た上でその月のうちに決める体制になっていった。

「数字が毎月見えるだけで、これほど経営判断が楽になるとは思わなかった」と院長は話す。月次管理は仕組みとして地味だ。しかし、判断を先送りにしてきた構造の根にあったのは、見えないことへの不安だった。見えれば、動ける。

その後、何が変わったか(After)

月次レビューの場面が変わったのは、支援開始から4か月目のことだ。

以前は決算が出るまで「なんとなく厳しい」としか言いようがなかった。今は毎月第2週の水曜日、院長は外来終了後にパソコンを開き、ダッシュボードの数字を確認する。外来・検査・リハビリの部門別採算が一画面に並び、MRIの稼働枠が何件埋まったか、空き枠が何コマ残ったか、前月との差がすぐわかる。

支援開始から半年が経つ頃、検査部門の稼働率は以前と比べて2割強改善している。近隣の内科・整形外科への紹介動線を整理し、「月に何件、どの診療科から来ているか」を初めて数字で把握したことで、アプローチが必要な医療機関が明確になった。検査枠の再設計では、午前の後半に集中していた予約を午後にも分散させ、1日あたりの稼働コマ数を実質的に増やした。

利益率の改善は、劇的な数字ではない。ただ、年々下がり続けていた傾向が止まり、法人全体の利益率は数ポイント改善傾向に転じている。MRIの減価償却費と保守費は変わらない。変わったのは、その固定費に対して収益が追いつき始めた構造だ。

院長が変わったのは、判断のスピードだ。検査枠が余っていると気づいた翌週には、紹介先の医院へ連絡を入れる。追加投資の話が出たときも、「今の稼働率なら回収に何年かかるか」を自分で計算できる。感覚ではなく、手元の数字を根拠に動く。それだけのことで、経営の重心が変わる。

「機器を買った後の『回す仕組み』が抜けていたことに気づかされた。数字が毎月見えるだけで、これほど経営判断が楽になるとは思わなかった。」

これから検討する方へ

機器を導入したあと、「回す仕組み」を後回しにしていないだろうか。

この院長が振り返って言った言葉は、今も耳に残っている。「買った後のことを、正直、誰も考えていなかった」。MRIは動いている。でも、どれだけ稼いでいるかは誰も分からない。その状態が、1年、2年と続いた。

問題は決算になって初めて数字に現れる。そのとき、もう1年分の利益は消えている。先送りのコストは、先送りした分だけ静かに積み上がる。

「もう少し様子を見てから」と思っているなら、その「もう少し」が何ヶ月になっているか、一度確かめてほしい。

私たちの視点

高額医療機器は、買った日から減価償却が始まる。しかし「回す仕組み」は、誰かが意図して作らない限り、生まれない。

この院長が手にしたのは、新しい機器ではなく、毎月数字を見る習慣だ。それだけで、判断が変わった。

経営の土台とは、そういうものだと思っている。派手な打ち手ではなく、見えていなかったものを見えるようにすること。それが、最初の一歩になる。

同じ悩みに心当たりのある方は、外部COOのご相談から。まず現状を整理するところから始めます。

この記事を書いた人

ミレニアム株式会社 経営支援チーム

医療法人・クリニックを中心に、経営改善、組織設計、人材定着、財務改善、マーケティング支援を行う専門チームです。

院長・理事長への業務集中、スタッフ退職、採用難、評価制度の未整備、事業承継、集患・広報など、医療機関に特有の経営課題に対し、現場の実態と経営構造の両面から課題を整理し、改善策を提案しています。

本メディアの記事は、医療法人経営やクリニック運営に関する実務知見をもとに、経営者が意思決定しやすい情報提供を目的として監修しています。