クリニックでスタッフの退職が続くとき、待遇を変える、採用を急ぐといった施策の前に、何が起きているかを分けて確認してください。退職理由として本人が話したこと、勤務記録で確認できること、院長や管理者の推測は、同じではありません。
まず残るスタッフの負担と診療体制を確かめ、次に個別の声と業務の事実を照合します。この記事では、定着改善のための聞き取りと、実施する改善を一つ選ぶ手順を整理します。複数の看護師の退職が差し迫っている場合は、退職連鎖が起きたときの初動もご覧ください。
退職理由は、三種類の情報に分けて記録する
同じ「忙しい」という言葉でも、休憩が取れないのか、業務が特定の人に偏るのか、急な指示変更が多いのかで対応は変わります。個人への評価に置き換えず、確認できる仕事の場面を聴きます。
| 情報 | 確認する内容 | 注意点 |
|---|---|---|
| 本人の申告 | 何がつらいか、どの場面で続けにくいか | 話したくないことを無理に求めない |
| 勤務・業務の事実 | 勤務時間、休憩、欠員、担当業務、応援状況等 | 数字の集計期間と対象をそろえる |
| 管理者の仮説 | 教育不足、役割の重複、相談経路の問題等 | 仮説を本人の本音だと断定しない |
「院長が原因」「古参スタッフが原因」と最初から結論を決めると、異なる事情を聞き落とします。複数の要因が重なる可能性を残し、事実と説明を分けて記録します。
個別面談で確認する四つの問い
面談前に、目的、記録を読む人、共有する範囲を説明します。退職を撤回させるための場とせず、今後の業務や職場を考えるための確認にします。次は質問の例です。
- 仕事を続けるうえで、負担が大きい場面はどこですか。
- 誰に何を相談すればよいか、分かりにくいことはありますか。
- 引き継ぎや指示で、毎回困ることはありますか。
- 最初に一つ変えられるなら、何を確認してほしいですか。
「誰が悪いと思うか」を繰り返し尋ねるより、具体的な場面を確かめます。管理者自身への不満を話しにくい場合は、別の責任者や適切な外部窓口を案内できるようにしてください。
少人数の職場では、完全な匿名を約束しない
名前を消しても、担当や勤務日、経験年数、出来事の詳細から、発言者が推測されることがあります。「匿名なので絶対に分からない」と約束しないでください。集計の方法や、自由記述をそのまま転記するかを事前に説明します。
共有資料では、個人を特定しやすい表現を避け、必要に応じて「指示変更の伝達が遅れる」など仕事の課題にまとめます。ただし、ハラスメントや安全上の問題は、単に多数意見へ集約するのではなく、適切な相談・調査の手順で扱います。健康情報や家庭の事情も、改善に不要な範囲まで共有しません。
改善策は、担当と確認できる結果を決めて一つ試す
例えば「急な指示が複数の人から来る」という問題なら、依頼の窓口と優先順位の決め方を整理します。以下は運用の架空例であり、実在する医院の改善実績ではありません。
| 確認した課題 | 試すこと | 確認する結果 |
|---|---|---|
| 指示変更が伝わらない | 変更点と担当を共有表に記録する | 二週間後、伝達漏れと記録負担を振り返る |
| 新人の確認先が毎回違う | 業務ごとの教育担当と不在時の確認先を決める | 質問が止まった場面と手順の不足を確認する |
| 特定の時間帯に負担が偏る | 作業量と担当を記録し、配置案を検討する | 残業や休憩、他の担当への負担も確認する |
一つの数値だけで成功と決めないようにします。残業が減っても、必要な作業を持ち帰ったり、別の人に負担が移ったりしていないか確認してください。実施できない要望には、理由と次に確認する時期を説明します。
定着率だけでなく、改善が続いているかを見る
退職者数や離職率を扱う際は、期間、対象職種、分母、採用・退職の数え方をそろえます。小規模な職場では一人の退職による変動が大きく、短期間の数字だけで施策の効果とは言い切れません。
勤務の実態、相談への対応、教育担当の負担、合意した改善の実施状況も確認しましょう。公的な調査を比較に使う場合は、病院・診療所などの対象や調査年が自院と合うかを確かめます。
面談・評価・教育を、具体的な手順に落とし込む
退職理由や働く上での困難を確かめるときは、職員ヒアリングの質問例と共有範囲から、聞き方と記録の扱いを整理できます。評価の不公平感や役割の曖昧さが課題なら、スタッフ評価制度の項目と面談の作り方を使い、医院側の支援も含めて次の行動を決めてください。
入職後に教える内容が人によって違う場合は、新人教育の30・60・90日確認表で担当と確認方法をそろえます。採用段階の説明と実際の仕事にずれがある場合は、求人票の仕事内容・勤務条件の書き方を見直し、実施できる体制を伝えます。
よくある質問
面談しても、本音を話してもらえません
話さないことを本人の非協力と決めつけず、記録や共有への不安、面談者との関係を確認します。一度で結論を求めず、勤務記録など確認可能な情報から改善できることを進めてください。
給与を上げれば退職を防げますか?
待遇だけで判断できません。給与や契約条件の確認と、役割、勤務負担、教育、相談経路の確認を分けて進めます。費用や制度変更は、経営状況と労務上の条件を踏まえて検討してください。
教育の負担が退職理由なら、教える担当と時間を見直す
「新人が育たない」という声があっても、新人だけの問題とは限りません。誰が教えたか、通常業務と教育が同じ時間に重なっていないか、上司ごとに手順が違っていないかを確認します。教える側が毎回残業や手直しを引き受けているなら、教育の分担自体が改善の対象になります。
完成例や途中の確認をどう伝えるかは、目的・完成形・期限をそろえる育成の方法で具体化しています。年齢や世代を評価するためではなく、職場の教え方をそろえるために使ってください。
院長がすべての調整を抱えないよう、担当と期限を残す経営会議の進め方に沿って、教育担当の調整、手順書の見直し、負担を確かめる日を決めます。面談で聞いた内容は、本人が特定される情報を必要以上に広げず、共有する業務上の課題に整理してください。
採用の前に、残るスタッフの仕事を確認する
新しい人を採用しても、同じ行き違いが残れば育成する人の負担が増えることがあります。まずは直近の勤務と面談で確認した課題から、今月試す改善を一つ選びましょう。
医療法人・クリニックの役割分担や採用・定着の支援を検討する方は、採用・労務・スタッフ問題対策の案内をご確認ください。相談したい課題が決まっている場合は、お問い合わせから状況をお伝えいただけます。労務や医療の個別判断は、適切な専門家との確認が必要です。









