売上は出ているのに利益が残らない医院の構造的な原因と分析の視点

売上は出ているのに利益が残らない医院の構造的な原因と分析の視点

「売上は悪くないはずなのに、手元にお金が残らない」、そう感じている院長は、決して少なくありません。毎月の医院の売上を眺めながら、どこで利益が消えているのか見当もつかない。そんな状態が続いているのではないでしょうか。

この記事では、売上と利益がかみ合わない医院に共通する構造的な原因を、経営の分析視点から整理していきます。数字の読み方を変えるだけで、問題の所在が思いのほかはっきり見えてきます。

📑 目次(クリックで開閉)
  1. 第1章 医院の売上は「3つの数字」で構成されている
    1. 1-1 単価:1患者あたりの診療報酬と自費収入を分けて把握する
    2. 1-2 件数:延べ患者数と実患者数の違いが経営判断を変える
    3. 1-3 継続率:患者が戻ってくる構造があるかどうかを確認する
  2. 第2章 保険診療と自由診療で「収益の読み方」はまったく異なる
    1. 2-1 保険診療の収益分析:レセプト件数・点数単価・査定率を軸にする
    2. 2-2 自由診療の収益分析:問い合わせ数・成約率・単価の3段階で見る
    3. 2-3 混合診療型クリニックが陥りやすい「売上の錯覚」とは
  3. 第3章 分析で数字が見えたあと、どう経営改善につなげるか
    1. 3-1 「売上は増えているのに利益が残らない」原因を数字で特定する
    2. 3-2 改善の優先順位は「インパクト×実行難易度」で決める
    3. 3-3 分析を「一人でやらない」ことが経営改善を継続させる鍵

第1章 医院の売上は「3つの数字」で構成されている

「売上が出ているのに利益が残らない」という感覚、多くの院長が持っているのではないでしょうか。その原因を探る前に、まず売上そのものを分解してみましょう。医院の売上は、単価・件数・継続率という3つの要素の掛け算で成り立っています。どこが弱いかを見極めるだけで、打ち手がまったく変わってきます。

1-1 単価:1患者あたりの診療報酬と自費収入を分けて把握する

「1日何人診た」という数字は把握していても、「1人あたりいくら売上が立っているか」を正確に追っている医院は意外と少ないものです。

単価を見るときは、保険診療収入と自費収入を必ず分けて計算してください。保険診療の単価は診療報酬点数で概ね上限が決まりますが、自費収入は施術・検査・サプリメント等の構成次第で大きく変わります。

たとえば、月の延べ患者数が600人で月次売上が300万円なら、1人あたり単価は5,000円。そのうち自費が1人あたり500円しかなければ、自費比率はわずか10%です。この数字を把握していない院長は、「自費を増やしたい」と言いながら現状値を持っていない状態で動くことになります。

  • 月次の保険請求総点数 ÷ 延べ患者数 = 保険単価(点数ベース)
  • 月次の自費売上合計 ÷ 延べ患者数 = 自費単価
  • 両者を合算したものが「実質1患者単価」

この3行を毎月レセコンと会計ソフトから引き出す習慣をつけるだけで、経営の解像度がぐっと上がります。

1-2 件数:延べ患者数と実患者数の違いが経営判断を変える

「月600人来ています」という数字、それは延べ患者数ですか、それとも実患者数ですか。この区別が曖昧なまま経営判断をしている医院は、思ったより多いです。

延べ患者数は来院回数の合計。実患者数はユニークな患者の人数です。月600人来院でも、実患者数が200人なら平均3回来院していることになります。逆に実患者数が550人なら、ほぼ1回きりの患者が大半ということ。

指標数値例A数値例B
延べ患者数600人600人
実患者数200人550人
平均来院回数3.0回1.1回
課題の方向性新患獲得継続来院の仕組み

打ち手がまったく逆になりますよね。件数の「中身」を見ずに広告費を増やしても、穴の空いたバケツに水を注ぐだけです。

1-3 継続率:患者が戻ってくる構造があるかどうかを確認する

3つ目の指標が、継続率です。一度来た患者が翌月も来院しているかどうか。これを追っている医院は、経営が安定しやすい傾向があります。

計算方法はシンプルです。先月来院した実患者数のうち、今月も来院した患者数の割合を出すだけ。たとえば先月200人来院し、そのうち今月も来た患者が120人なら継続率は60%です。

慢性疾患管理が中心の内科であれば継続率70〜80%台が一つの目安になりますが、これはあくまで診療科目や患者層によって変わります。大切なのは「自院の継続率が今どこにあるか」を把握することです。

継続率が低い場合、問題は集患ではなく診療後のフォロー体制や患者体験にある場合がほとんどです。売上の分析は、この3つの数字を並べるところから始まります。

第2章 保険診療と自由診療で「収益の読み方」はまったく異なる

売上の分析をするとき、保険診療と自由診療を同じ感覚で眺めていませんか。両者は収益が生まれる構造そのものが違うため、見るべき指標も、打てる手も、まったく別物です。ここを混同したまま数字を追いかけると、どこを改善すれば利益が残るのかが見えなくなります。

2-1 保険診療の収益分析:レセプト件数・点数単価・査定率を軸にする

保険診療は、診療報酬点数が制度で固定されています。1点10円というルールは変わらないので、院長が価格を自由に決める余地はほぼありません。つまり収益を動かせる変数は、件数・効率・査定率の3つに絞られます。

  • レセプト件数:月間の実患者数と1患者あたりの受診回数を掛け合わせた数。ここが薄いと、どれだけ丁寧な診療をしても売上の天井は低い。
  • 点数単価:1レセプトあたりの平均点数。初診・再診の比率、加算の取得状況(在宅医療管理料、特定疾患療養管理料など)によって変動する。
  • 査定率:審査支払機関に減点・返戻されたレセプトの割合。査定率が1%を超えているクリニックでは、年間数十万円単位の売上ロスが静かに発生していることがあります。

月次でこの3指標を並べるだけで、「件数は増えているのに売上が伸びない」「単価が下がっている」といった変化を早期に捉えられます。

2-2 自由診療の収益分析:問い合わせ数・成約率・単価の3段階で見る

自由診療は価格を院長が設定できる分、どこで利益が漏れているかを自分で突き止めなければなりません。分析は次の3段階で考えると整理しやすいです。

段階指標確認するポイント
①集客月間問い合わせ数・初診予約数広告費に対してどれだけ反応があるか
②成約カウンセリング→施術の成約率50%を下回るなら説明・導線に課題がある可能性
③単価1件あたりの平均施術単価オプション提案・コース設計が機能しているか

たとえば月の問い合わせが30件あっても成約率が30%なら実施件数は9件。単価が2万円なら売上は18万円です。成約率を50%に改善するだけで売上は30万円になります。価格を上げる前に、成約率の改善を先に検討する価値があるのはこのためです。

2-3 混合診療型クリニックが陥りやすい「売上の錯覚」とは

保険と自由診療を両方持つクリニックでよく起きるのが、「自由診療が好調だから全体も伸びているはず」という感覚的な読み違いです。自由診療の売上が月100万円増えても、同じ期間に保険診療の件数が落ちていれば、実質の利益はほとんど変わっていないことがあります。

両者を合算した「売上合計」だけを見ていると、この変化に気づけません。管理上は保険・自由を分けた損益を月次で並べ、それぞれの原価率(人件費・材料費の配賦)も分けて把握することが必要です。医院の売上分析において、この「分けて見る」という作業が、利益が残らない構造を可視化する第一歩になります。

第3章 分析で数字が見えたあと、どう経営改善につなげるか

売上の分析は、終着点ではありません。数字が見えたとき、それをどう行動に変えるかが問われます。ここでは、課題の特定から優先順位の決め方、そして継続できる改善の仕組みまでを整理します。

3-1 「売上は増えているのに利益が残らない」原因を数字で特定する

売上が伸びているのに手元に残らない。この感覚、覚えがある方も多いのではないでしょうか。原因は大きく3つのパターンに分かれます。

  • 人件費比率の上昇:売上に対してスタッフ数が増えすぎている。医院の人件費比率は一般的に売上の40〜50%が目安とされますが、これを超えている場合は構造的な問題です。
  • 材料費・外注費の膨張:自由診療の施術を増やした結果、材料費が比例以上に増えているケースがあります。施術ごとの粗利を計算していないと見えません。
  • 固定費の肥大化:賃料・リース・システム費用など、売上が下がっても減らない費用が積み上がっている状態です。

まず月次の損益計算書を開き、売上総利益率(粗利率)と営業利益率を確認してください。粗利率が前年比で2〜3ポイント落ちているなら、原価側に問題があります。営業利益率が低下しているなら、固定費の膨張を疑う。この2ステップで、問題の在処はほぼ絞れます。

3-2 改善の優先順位は「インパクト×実行難易度」で決める

課題が複数出てきたとき、全部に手をつけようとすると何も変わりません。優先順位の基準を持つことが重要です。

課題財務インパクト実行難易度優先度
自由診療の単価見直し低〜中★★★
パート人員の勤務時間最適化★★★
不採算診療の縮小・廃止★★
新規自由診療メニューの開発高(将来)

たとえば、自由診療の施術単価を月1回の見直しサイクルで管理するだけで、年間の粗利が数十万円単位で変わることがあります。一方、新メニュー開発は時間と投資が必要で、すぐには効きません。まず「インパクトが大きく、すぐ動ける」ところから手をつける。これが継続できる改善の入口です。

3-3 分析を「一人でやらない」ことが経営改善を継続させる鍵

診療をしながら数字を追い、改善策を考え、スタッフにも目を配る。それを一人でやり続けることには、認知的な限界があります。人間の作業記憶には容量があり、複数の経営判断を同時に処理し続けると、どこかで判断の質が落ちる。これは意志の問題ではなく、構造の問題です。

実際に経営改善が定着している医院では、月1回・60〜90分の「数字を見る場」を外部の人間と設けているケースが多い。顧問税理士でも、経営に詳しい外部パートナーでも構いません。大切なのは、院長以外の視点が定期的に入ることです。

売上の分析は、やって終わりではありません。数字を読み、課題を特定し、行動に落とし込み、また数字で検証する。このサイクルを回す仕組みを持てるかどうかが、医院経営の持続性を左右します。

社会保険診療報酬支払基金は、毎月の審査状況としてレセプト件数や査定状況を公表しています。

出典: 社会保険診療報酬支払基金|7 令和6年2月審査分の審査状況

売上と利益のズレを「現場の症状」として捉えると、対策は場当たり的になりがちです。「スタッフの無駄遣いが多い」「患者数が足りない」といった表面の症状ではなく、財務構造・コスト設計・収益モデルという経営の土台から分析することで、問題の所在が初めて明確になります。この記事では、その視点を一貫して持ちながら読み進めてください。

まとめ

医院の利益が残らない原因を探るには、売上を単価・件数・継続率に分け、保険診療と自由診療を切り分けて確認することが重要です。そのうえで、人件費や材料費などのコストとの関係を見れば、改善すべき箇所が具体的になります。感覚だけで施策を決めず、毎月同じ指標を追い、優先順位を付けて実行と検証を繰り返すことが収益改善の土台です。

よくある質問

売上分析はどのくらいの頻度で行うべきですか?

月次での確認が基本です。レセプト請求後の数値を翌月に照合する習慣をつけることで、異常値の早期発見につながります。

自由診療の売上が伸びているのに利益が増えない理由は何ですか?

材料費・人件費・広告費などのコストが比例して増加しているケースが多いです。売上だけでなく自由診療の利益率を別途把握することが重要です。

売上分析に使えるツールや方法はありますか?

レセコンのデータ出力と表計算ソフトの組み合わせが一般的です。電子カルテと連携した経営管理ツールを導入している医院も増えています。

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この記事を書いた人

ミレニアム株式会社 経営支援チーム

医療法人・クリニックを中心に、経営改善、組織設計、人材定着、財務改善、マーケティング支援を行う専門チームです。

院長・理事長への業務集中、スタッフ退職、採用難、評価制度の未整備、事業承継、集患・広報など、医療機関に特有の経営課題に対し、現場の実態と経営構造の両面から課題を整理し、改善策を提案しています。

本メディアの記事は、医療法人経営やクリニック運営に関する実務知見をもとに、経営者が意思決定しやすい情報提供を目的として監修しています。