提案書止まりのコンサルから脱却し、実行が回る経営へ転換した人工透析クリニックの記録

医療法人の外部COO事例イメージ|提案書止まりのコンサルから脱却し、実行が回る経営へ転換した人工透析クリニックの記録

毎月、顧問料の請求書が届く。封を開けるたびに、どこかで「今月は何か変わっただろうか」と思う。でも、振り返っても、現場は先月と同じだ。

開業15年目、医師3名・スタッフ30名の人工透析クリニック。経営の土台は一定程度ある。患者も来ている。数字が壊滅的なわけでもない。それでも、院長の机の上には「提案書」が積み重なる。読んだ。理解もした。だが、誰も動かない。いや、正確には、動かす仕組みがなかった。

「コンサルって、こういうものだと諦めていました」。その言葉が出るまでに、何年かかったか。

あなたのクリニックでも、似たような徒労感を感じたことはないだろうか。この記事は、提案書止まりのコンサルから抜け出し、実行が回る経営へ転換した一つの事例の記録だ。

相談に来られた頃(Before)

診療が終わった後、院長はいつも同じ場所に座る。処置室の隣、狭いデスクの前。透析患者の記録を確認し終えると、今度は経営の書類が待っている。

開業15年目。医師3名、スタッフ30名。人工透析という診療の性格上、患者は週3回必ず来る。売上は読める。経営が崩壊しているわけではない。でも、何かが前に進んでいない感覚が、ずっとある。

ここ数年で、経営コンサルとの顧問契約を3社経験した。最初の会社は医療特化をうたっていた。初回の診断は丁寧で、分厚い提案書が出てくる。スタッフの役割整理、収益構造の見直し、採用フローの改善。読めば確かに、もっともなことが書いてある。

ただ、それだけだった。

「次回は実行フェーズに入りましょう」と言われ続けて、半年が過ぎた。院長が動かなければ何も変わらない。でも院長は、毎週月・水・金の透析業務を回しながら、外来も診て、スタッフの相談にも乗っている。提案書を実行に移す時間も、そのための社内調整をする余力も、どこにもない。

2社目も似たようなものだった。「先生、まず数字を整理しましょう」と言われ、財務の分析資料が届く。グラフはきれいで、課題の整理も悪くない。でも、「だから何をするか」の話になると、また「院長が主導して」という流れになる。

「いや、正直、もう無理だと思ってました」と、院長は後にそう話す。「動けないから困ってるのに、動いてくださいって言われても、って感じで」

月次の顧問料は積み上がる。年間で数百万円規模になる年もある。それに見合う変化が、院内のどこかに起きているかと問われれば、答えに詰まる。スタッフの動き方が変わったか。収益構造が変わったか。院長自身の負荷が減ったか。どれも、はっきりとは言えない。

「コンサルって、こういうものだと諦めていました」

その言葉が、すべてを表している。外部に相談することへの期待が、少しずつ薄れていく。提案書は読む。会議には出る。でも、変わらない。それが繰り返されると、人は「相談しても無駄かもしれない」という結論に近づいていく。

院長に判断が集中している構造は、誰も指摘しない。提案書は課題を列挙するが、「誰が・いつまでに・何を動かすか」まで踏み込んだものは一度もなかった。現場を動かすための仕組みは院内にない。外部の助言を受けても、それを実行に変換する回路が存在しない。だから、提案書は毎回、引き出しにしまわれていく。

休日の朝、院長はコーヒーを飲みながら、また同じことを考える。このまま5年後、何が変わっているのか。答えは出ない。

なぜ、私たちを選んだのか

過去に関わったコンサルは、複数社にわたる。費用もそれなりに投じた。ただ、手元に残ったのは分厚い提案書と、毎月引き落とされる顧問料の明細だけ。「何が変わったのか」と問われれば、正直に答えられない。そういう状態が続いている。

院長が最初の面談で率直に話した。「正直、コンサルってこういうものだと諦めていました。提案書をもらって、あとは自分たちでやれ、という感じで」。声に、怒りはない。ただ疲れている。

決め手になったのは、二つの点だ。

一つは、初回の経営構造診断の段階で「成果が出る依頼と出ない依頼」を切り分けて提示されたこと。「この課題は今の体制で動かせます。ただ、こちらは前提が整わないと効果が出ません」という説明を受けた時、院長は少し黙る。「今まで、そんなことを最初に言ってくれた人はいなかった」と、後から振り返っている。耳に心地よい提案ではなく、現実から始める姿勢。それが誠実さとして伝わった。

もう一つは、関与のスタイルそのもの。過去のコンサルはすべて「助言して終わり」の構造だった。提案書を渡した後、実行するのは院長とスタッフ。うまくいかなくても、次の月には新しい提案が来る。その繰り返し。対して、月次でKPIを設定し、進捗を管理し、動いていなければ理由を問い直す、という伴走の仕組みは、過去とは構造が違う。院長が感じたのは「安心感」というより「仕組みの違い」だ。

「いや、最初は半信半疑でしたよ。また同じかもしれないって」。それでも動いた理由は、提案の中身より、話の進め方にある。

私たちがやったこと(時系列)

1か月目。最初の経営構造診断は、院長が「また同じことをやるのか」と半ば覚悟していた場から始まった。

診断では財務・人材・役割・契約・リスクの5領域を順番に分解していく。院長は「財務は税理士に任せている」「人材は採用を強化したい」と言う。それ自体は間違っていない。ただ、問いを変えると答えが変わる。「その採用の決裁は誰がしますか」「採用基準は文書になっていますか」「採用後の定着を誰が管理していますか」。院長は少し間を置いてから「正直、決まっていないですね」と答えた。

過去のコンサルが残した提案書を並べると、構造的な原因が見えてくる。採用改善、業務フロー整備、自由診療の検討。どの提案書にも「誰が・いつまでに・何をするか」が書かれていない。院長がすべての実行責任を担うことが暗黙の前提になっていて、その院長は診療と透析管理で手が埋まっている。提案は正しくても、実行の設計がない。だから現場は動かない。診断の最後に、この構造を一枚の図に整理して院長に渡す。院長はしばらく図を見てから「これ、ずっと感じていたことなんですよね」と静かに言った。

2か月目。可視化した論点に優先順位をつける作業から始まる。論点は全部で14項目あった。すべてに手をつけることはしない。「今の院長とスタッフのリソースで動かせるものはどれか」を基準に、最初の90日で扱う課題を3つに絞った。人材の役割定義、意思決定フローの明文化、月次の数字の追い方の再設計。この3つだ。

役割定義書の作成は、院長・幹部スタッフを交えた会議で進めた。「透析室のシフト変更は誰が最終決定しますか」「スタッフからのクレームは誰が受けて、どこまで対応しますか」。一つひとつ確認していくと、「それは院長に聞いてから」「自分の判断でいいのかわからなくて」という言葉が幹部から出てくる。決めていないから聞く。聞かれるから院長が答える。院長の判断待ちが積み重なって、現場の動きが止まる。その構造が、会議の中で可視化された。

3か月目。役割定義書を現場に渡し、意思決定の流れを実際に動かしながら調整する期間に入る。最初の2週間は「これは私が決めていいんですか」という確認が幹部から何度も来た。そのたびに「定義書のどの項目に当たりますか」と問い返すことで、判断の軸を院長ではなく文書に移していく。3週目になると、確認の頻度が落ちてくる。小さな変化だが、院長は気づいている。「なんか、少し楽になってきた気がします」。診療後の短い立ち話で、そう言った。

4か月目からは月次経営会議への参加が始まる。会議の前に、今月追うKPIを3つ以内に絞って事前共有する。会議当日は数字と現状を並べ、「何が動いて、何が動かなかったか」を30分で確認する。採用面談には同席し、「どんな人を採りたいか」を院長が言語化できるまで一緒に考える。提案書を渡して終わりではない。次の会議までに誰が何をするかを決め、その進捗を翌月に必ず確認する。

「コンサルって、こういうものだと諦めていました」と院長は言った。提案書が積み上がるたびに、費用だけが出ていく感覚。その徒労感の正体は、実行の設計がなかったことへの疲労だ。4か月目を過ぎた頃、院長はそう振り返った。

その後、何が変わったか(After)

月次経営会議が終わった後、院長は以前のように疲れた顔で席を立たない。ホワイトボードには今月のKPIが並び、「動いた項目」と「止まっている項目」が色分けされている。誰もが同じ数字を見ている。それだけで、会議の空気が変わった。

支援開始から半年が経つ頃、院長への確認依頼の件数が目に見えて減っていた。透析スケジュールの調整、物品発注の最終承認、スタッフからの細かい問い合わせ。以前は一日に10件以上、院長のもとに集まっていた判断が、幹部スタッフへ段階的に移った。週あたりで換算すると、院長が診療に使える時間は3〜4時間ほど増えた計算になる。数字にすれば小さく見えるかもしれないが、透析患者を抱えるクリニックの院長にとって、その時間の重みは違う。

費用の話もある。複数のコンサルに払い続けた顧問料の総額は、年間で相当な額に上っていた。それが提案書の束になって積み上がるだけで、現場は動かない。同じ費用を投じながら、今は毎月「何が実行されたか」を確認できる。過去に積み上がっていた未実行の提案事項のうち、優先度の高い4項目は、4か月目から6か月目の間に順に実行済みへ移行している。

院長が感じていた変化は、数字よりも先に「感覚」として来た。会議が終わった後、次の一手が決まっている。誰が、いつまでに、何をするかが紙に残っている。翌月にはその進捗を全員で確認する。それが当たり前の習慣になった頃、徒労感は静かに薄れていた。

「コンサルって、こういうものだと諦めていました」

院長はそう言って、少し笑った。諦めていた、という言葉に、15年分の疲れが滲む。それが今は、過去形になっている。

これから検討する方へ

「コンサルって、こういうものだと諦めていました」と、その院長は話してくれた。15年、現場を守り続けてきた人が、そこまで諦めている。

もし今、同じ徒労感を抱えているなら、一つだけ問いたい。今のコンサルとの契約に、「誰が・いつまでに・何をするか」を追跡する仕組みはあるか。提案書の厚さでも、顧問料の高さでもない。実行率を誰かが管理しているかどうか、それだけだ。

先送りにしているあいだにも、スタッフは動き、患者は来て、月次の数字は積み上がる。構造は放置されたまま、症状だけが増えていく。気づいたときには、また別のコンサルに同じ提案書を発注している、ということにならないだろうか。

私たちの視点

助言は、届いた瞬間に消える。実行が回ってはじめて、経営は動く。

提案書の厚さより、「誰が・いつまでに・何をするか」が決まっているかどうか。それだけのことが、15年目の転換点になった。

同じ悩みに心当たりのある方は、外部COOのご相談から。まず現状を整理するところから始めます。

この記事を書いた人

ミレニアム株式会社 経営支援チーム

医療法人・クリニックを中心に、経営改善、組織設計、人材定着、財務改善、マーケティング支援を行う専門チームです。

院長・理事長への業務集中、スタッフ退職、採用難、評価制度の未整備、事業承継、集患・広報など、医療機関に特有の経営課題に対し、現場の実態と経営構造の両面から課題を整理し、改善策を提案しています。

本メディアの記事は、医療法人経営やクリニック運営に関する実務知見をもとに、経営者が意思決定しやすい情報提供を目的として監修しています。