保険診療一本の不安から自由診療の設計に着手した皮膚科クリニックの話

クリニックの自由診療事例イメージ|保険診療一本の不安から自由診療の設計に着手した皮膚科クリニックの話

「このままでいいのか、ずっと引っかかっていました」

首都圏近郊で皮膚科クリニックを開業して9年。医師1名、スタッフ10名の体制で、保険診療を積み上げてきた。患者は来る。数字も、悪くはない。それでも、診療報酬の改定通知が届くたびに、胃のあたりが重くなる感覚がある。

自由診療を考えたことは、一度や二度ではない。ただ、何のメニューをいくらで出すのか、どこから手をつけるのか、具体的なイメージが持てないまま時間が過ぎる。美容系の流行メニューを並べることへの違和感もある。「自院らしさ」を守りたい気持ちと、収益を広げたい現実が、うまく噛み合わない。

院長は今日も診療をこなし、スタッフの調整をして、夜に一人でパソコンを開く。調べる時間も、相談できる相手もない。

あなたも、同じ場所で立ち止まっていないだろうか。

相談に来られた頃(Before)

診察室の電気を消すのは、いつも午後7時を過ぎてからだ。

最後の患者を見送り、カルテの入力を終えると、院長はそのまま椅子に深く座り直す。今日も30人以上診た。湿疹、アトピー、ニキビ、爪白癬。保険診療の積み重ねで、数字の上では悪くない。スタッフ10名を抱えても、クリニックは9年間、それなりに回ってきた。

でも、何かが引っかかる。

2年前の診療報酬改定で、主力の処置点数が下がった。対応策を講じる間もなく、気づけば月の手取りが数万円単位で減っていた。あの時の感覚が、まだ体に残っている。「また改定があったら、どうするんだろう」。誰にも言わないまま、その問いが頭の片隅に居座り続けている。

自由診療の話は、以前から耳に入っていた。美容レーザー、ビタミン点滴、美白ドリップ。同業の医師が「今はこれが熱い」と話すのを聞くたびに、正直、乗り切れない自分がいる。「流行りものを追うのは、自分のクリニックじゃない」という感覚が、どこかにある。でも、そう言い続けるだけでは何も変わらない。それも分かっている。

休日の午後、子どもが部屋にこもり、配偶者がリビングで何かを読んでいる。院長はダイニングテーブルにノートを広げ、自由診療のメニューを書き出してみようとする。何を書けばいいのか、分からない。自院の強みは何か。地域の患者層は何を求めているのか。価格はどう設定するのか。調べようにも、どこから調べるのかが分からない。

30分後、ノートは白いままだ。

「このままでいいのか、ずっと引っかかっていました」。後になって院長はそう話す。引っかかりの正体は、漠然とした不安というより、もっと具体的な問いだった。保険診療だけで、あと10年やれるのか。点数が下がるたびに削られていく収益を、どう補うのか。自院らしさを保ちながら、収益の柱を増やすことはできるのか。

相談できる相手は、いない。税理士は数字を見てくれるが、メニュー設計は専門外だ。医師仲間は自分より先に動いているか、同じく迷っているかのどちらかで、答えは持っていない。医療系のコンサルタントから営業の電話がかかってくることもあるが、「先生のクリニックに合った自由診療を提案します」という言葉が、どうも信用できない。向こうから良い話を持ってくる人ほど、用心したほうがいい。そう思ってきた。

ノートを閉じる。また来週考えよう。そう思いながら、来週も同じことを繰り返す。診療は続く。点数は揺れる。時間は過ぎていく。

なぜ、私たちを選んだのか

「このままでいいのか、ずっと引っかかっていました」

院長がそう口にしたのは、相談に来た最初の日だった。保険診療だけで9年。患者は来ている。数字も、悪くはない。でも、診療報酬の改定のたびに収入が揺れる感覚は消えない。自由診療を考えたのは、もう2年以上前のことだ。

きっかけは、同業の知人から紹介された自由診療コンサルへの相談だった。提案書は、見た目が整っていた。ただ、中身を読み進めるうちに、違和感が出てくる。メニューの構成も、価格帯も、どこかで見たことがある内容だ。「先生のクリニックに合わせました」という説明はあったが、自院の患者層を調べた形跡はなく、地域の競合状況についての言及もなかった。

院長には、一つだけ外せない感覚があった。「うちらしくない診療はやりたくない」。9年かけて積み上げた患者との関係がある。それを壊してまで、流行りのメニューを並べることに、どうしても踏み切れなかった。

決め手は、最初の面談で出てきた問いの種類だった。「先生のクリニックの患者層で、今どんな相談が多いですか」「この地域で、美容皮膚科はどこが競合になりますか」「先生が得意な処置と、やりたくない処置を教えてください」。提案の前に、まず調べる姿勢。自院の実績と地域の実情を起点にするという、その順番が、院長には自然に映った。

「流行っているから入れましょう、ではなかったんです。うちに何が合うかを一緒に考えてくれた」

それが、動き出した理由だった。

私たちがやったこと(時系列)

1か月目は、調査から始まった。

まず手をつけたのは、院長自身が「なんとなく把握している」と思っていた患者データの整理だ。実際に過去2年分のカルテをもとに、来院患者の年齢層・主訴・リピート率を集計すると、院長が想定していた構成とは少しずれている。「30代後半から40代の女性が思ったより多い」と院長は言った。「ニキビとシミが主訴の患者が、思っていた以上に繰り返し来てくれている」とも。数字になって初めて見えてくるものがある。

並行して、地域の競合クリニック5〜6院の自由診療メニューと価格帯をウェブで調査した。美容クリニック寄りの院から、保険診療中心の皮膚科が自由診療を一部加えている院まで、価格帯のばらつきは想定以上に大きい。院長は「うちより高いところも、安いところも、両方ある。どこに合わせるかが分からない」と話した。

最後に、院長の診療スキルと現有設備で実施できることの棚卸しを行った。「今すぐ追加投資なしでできること」「軽微な設備追加でできること」「大きな投資が必要なこと」の3つに分けて整理する。この分類が、翌月の議論の起点になる。

2か月目は、絞り込みの作業だ。

調査結果を1枚の資料にまとめ、院長と向き合って確認した。「患者層」「地域の競合状況」「自院でできること」の3つの円を描き、重なる部分を探す。候補として上がったのは、ケミカルピーリング、ビタミンC点滴、毛穴・くすみケアを目的としたレーザートーニングの3つだ。

そこから、さらに絞った。初期導入として一度に複数メニューを立ち上げることのリスク、スタッフへの説明コスト、院長自身の習熟度を考えると、まず1〜2メニューに集中するほうが現実的だ。最終的に選んだのは、追加設備不要で今すぐ始められるケミカルピーリングと、既存患者の主訴に直接応えられるビタミンC点滴の2つ。

価格設定では、既存の保険患者の客層と大きく乖離しない範囲を意識した。美容専門クリニックの価格帯をそのまま参照すると、既存患者が「うちの先生が変わってしまった」と感じるリスクがある。院長は「高すぎると来てもらえないし、安すぎると自由診療の意味がない」と率直に言った。地域の競合データと患者属性を照らし合わせ、ピーリングは1回あたり8,000円から1万円の範囲、点滴は1万2,000円前後を目安とする。

この月の終わりに、スタッフ向けの説明資料を作成した。「なぜ自由診療を始めるのか」「患者にどう案内するか」「よくある質問への答え」の3点を1枚にまとめる。スタッフが戸惑わないよう、背景から丁寧に説明する資料だ。

3か月目からは、試験導入に入った。

最初の1か月は、ケミカルピーリング1メニューだけを動かす。全面告知ではなく、来院中の既存患者のうち、肌質改善を主訴とする患者に対して受付とスタッフが案内するかたちからスタートした。院内掲示はA4のシンプルなPOPを1枚。過剰な宣伝感を出さないよう、文言は「保険診療では対応できない肌悩みのご相談を承ります」という一行にとどめる。

月次で追う指標は3つに絞った。予約数、実際の施術単価、施術後の患者の反応だ。「反応」は数値化しにくいが、「また来たいと言ったか」「質問があったか」をスタッフが簡単に記録する仕組みを作った。毎月の振り返り会議では、この3つを並べて院長と確認する。何が動いて、何が動いていないか。感覚ではなく、記録で見る。

3か月目の終わり、院長は静かにこう言った。「なんというか、ようやく動き出した感じがします。正直、ここまでの道筋が自分の中でずっと見えなかった」

その後、何が変わったか(After)

3か月の設計フェーズが終わったとき、院長の手元には2枚の資料がある。1枚は自院の強みを整理した競合比較シート、もう1枚は新しく立ち上げる自由診療メニュー2本の概要と価格帯を記したもの。薄い資料だ。でも、院長にとってはこれまでで一番「自分の言葉で説明できる」資料だった。

試験導入から1か月。自由診療の売上は月35万円前後で推移している。保険収益の規模と比べれば小さい。ただ、院長の見方は変わっている。「補完として機能し始めている」という感覚が、日々の診療の空気を少し変えた。

スタッフへの説明も、以前とは違う。以前なら「とりあえずやってみる」で終わっていたかもしれない。今は、なぜこのメニューを選んだのか、どんな患者さんに届けたいのかを、院長自身が順序立てて話せる。受付スタッフが患者さんから「これって何ですか」と聞かれたとき、答えに詰まらなくなった。それだけで、現場の空気が落ち着く。

保険点数改定のニュースを目にしても、以前ほど胃が重くならない。改定の影響を受ける部分は確かにある。でも、収益の柱が一本だけではなくなる方向性が見えていると、同じニュースでも受け取り方が変わる。コントロールできる部分が増えた、という感覚。それが、院長の毎朝の気分を少し軽くしている。

「このままでいいのか、ずっと引っかかっていました。でも今は、何をやるかじゃなくて、なぜやるかから考えられるようになった気がします」

これから検討する方へ

「このままでいいのか、ずっと引っかかっていました」と、その院長は話してくれた。ただ、引っかかりながらも、9年間、動けなかった。

忙しいから、今は無理。落ち着いたら考える。そう思っているうちに、また1年が過ぎる。これは珍しい話ではないだろうか。

保険診療の点数は、自分では決められない。患者数を増やすにも、診察室は1つしかない。その構造的な天井に気づいていながら、「何から手をつければいいか分からない」という理由で、検討を先送りにし続ける。

先送りそのものが、リスクだ。市場は動いている。地域の競合クリニックが自由診療を始めるのを待ってから動いても、患者の認知はすでに固まっている。

最初の一歩は、大きくなくていい。自院の患者構造と地域環境を整理するだけでいい。それだけで、「何から始めるか」の答えは、かなり絞られてくる。

私たちの視点

保険診療の外に出ることは、流行を追うことではない。自院に何があるか、地域に何が求められているか。その問いに正直に向き合うことが、収益の土台を広げる最初の一歩になる。

設計は、地味で、地道だ。でも、それがいい。

同じ悩みに心当たりのある方は、自由診療のご相談から。まず現状を整理するところから始めます。

この記事を書いた人

ミレニアム株式会社 経営支援チーム

医療法人・クリニックを中心に、経営改善、組織設計、人材定着、財務改善、マーケティング支援を行う専門チームです。

院長・理事長への業務集中、スタッフ退職、採用難、評価制度の未整備、事業承継、集患・広報など、医療機関に特有の経営課題に対し、現場の実態と経営構造の両面から課題を整理し、改善策を提案しています。

本メディアの記事は、医療法人経営やクリニック運営に関する実務知見をもとに、経営者が意思決定しやすい情報提供を目的として監修しています。