閉院を覚悟した複数拠点の医療法人が縮小再建で黒字化の目処を立てた話

医療法人の再建事例イメージ|閉院を覚悟した複数拠点の医療法人が縮小再建で黒字化の目処を立てた話

「もう畳むしかない、と思っていました」

開業から18年。内科と整形外科、複数拠点を抱えながら、気づけば赤字が続いて数年になる。毎月の資金繰りは綱渡りで、金融機関への返済と人件費のどちらを先に手当てするか、それだけで頭がいっぱいだ。医師3名、スタッフ28名。その雇用を背負ったまま、撤退か継続かの答えが出ない。

相談しようにも、閉院ありきで動く専門家には話しにくい。顧問税理士は数字を読むだけで、経営の判断には踏み込まない。孤独な夜が続く。

体力も、気力も、正直なところ限界に近い。年齢を考えれば、自分の引き際もどこかで決めなければならない。でも、どこから手をつければいいのか。

この記事は、そんな状況から縮小再建の道筋を見つけた一つの事例を記録したものだ。閉院を覚悟した理事長が、何を判断の軸にして、どう動いたのか。同じ問いを抱えている方に、届けばと思う。

相談に来られた頃(Before)

午前6時。診察開始まで2時間ある。院長は院長室の椅子に座ったまま、手元のノートを開く。昨夜も同じページを開いて、同じ数字を眺めた。先月の収支。その前の月の収支。どこを削っても、足りない。

開業から18年。内科と整形外科、2つの拠点を抱えて走り続けてきた。医師3名、スタッフ28名。地方都市の医療を支えているという自負は、今もある。ただ、その自負が重い。「俺が決断できないせいで、みんなの給料が危ない」。そう思うと、ノートを閉じることもできない。

資金繰りは、もう月単位の綱渡りだ。金融機関への返済期日と、給与支払日。どちらを先に動かすか、毎月同じ計算を繰り返す。顧問税理士には「厳しいですね」と言われた。それだけだ。具体的な打ち手は出てこない。

「なんで、こうなったんだろう」と、院長はよく考える。悪いことをしたわけじゃない。患者を増やそうとした。拠点を増やした。スタッフを雇った。ひとつひとつの判断は、間違っていなかったはずだ。なのに、気づいたら収益が薄くなり、固定費だけが残っている。

夜、帰宅は21時を過ぎる。食卓には配偶者が一人で座っている。「今日どうだった?」と聞かれる。「まあ、普通」と答える。本当のことは言えない。言っても、解決しない。心配させるだけだ。箸を持ったまま、会話が途切れる。

閉院を考えたのは、いつ頃からだろう。1年前か、2年前か。もう記憶が曖昧だ。ただ、「畳む」という言葉が頭の中に居座るようになったのは確かで、それを誰にも言えない。スタッフに知れたら、動揺が走る。患者に伝わったら、離れていく。経営コンサルに相談すれば、「では閉院の手続きを」と進められそうで、怖い。

閉院ありきで動く専門家には、相談できない。でも、このまま続けられる保証もない。撤退か継続か。その判断軸が、どこにも見当たらない。

休日の午後、院長はソファに横になる。子どもたちの声が遠くから聞こえる。目を閉じると、数字が浮かぶ。返済額。人件費。来月の収入見込み。休んでいるのか、考えているのか、自分でもわからない。

50代に入り、体の疲れが抜けにくくなった。「あと何年、これができるか」という問いが、以前より重くなっている。引き際を考えるには早い気もする。でも、判断を先送りにできる時間も、もう多くはない。

初回の相談で、院長はぽつりと言った。「もう畳むしかない、と思っていました」。声に、力はない。ただ、その言葉の裏に、まだ諦めていない何かが残っている。

なぜ、私たちを選んだのか

税理士には、こう言われていた。「先生、早めに整理を考えた方がいいと思います」。顧問の社労士も、同じようなことを口にする。誰もが「撤退」を前提に話を進めようとする。でも、院長が知りたかったのは、そこではない。

「本当に、全部畳むしかないのか。残せる部分はないのか」。その問いに、誰も一緒に向き合ってくれなかった。

一般の経営コンサルにも声をかけた。資料を送り、数字を見てもらう。返ってきたのは、「不採算部門の早期撤退を検討してください」という提言だけ。判断の根拠は示される。でも、その後をどう設計するか、誰が実行するか、そこには踏み込んでこない。助言は出る。動く人間がいない。

決め手になったのは、最初の面談での一言だ。「閉院ありきで考えているわけではありません。まず、何が残せて、何が残せないかを構造として見ます」。院長は、その言葉を聞いて少し黙る。

収益構造と固定費を、部門ごとに分解して見ていく。どの拠点が、どの診療科が、どの人員構成が、赤字の構造を作っているのか。それを「感覚」ではなく、数字と役割の両面から診断する。撤退か存続かの判断を、院長一人に委ねない。その設計を一緒に持ってくれる相手を、院長はずっと探していた。

「もう畳むしかない、と思っていました。でも、本当にそうかどうか、確かめてもいなかった」。初回面談が終わった後、院長はそう話した。

私たちがやったこと(時系列)

1か月目に取り組んだのは、数字の整理ではなく、数字の「読み直し」だ。

法人全体の試算表は手元にある。ただ、拠点別・診療科別に損益を分解した資料は存在しない。内科拠点と整形外科拠点が一本の帳簿に混在しており、どちらが赤字の発生源なのか、院長自身も把握できていない状態だった。

まず着手したのは、拠点ごとの売上・変動費・固定費の切り分けだ。人件費は配置スタッフの勤務実績をもとに按分し、賃料・設備リースは契約書を一枚ずつ確認して拠点に紐づける。作業自体は地味で時間がかかる。それでも、2週間かけて「どの拠点が・いくら・なぜ赤字なのか」がようやく一枚の表に収まった。

その表を院長に見せた日、しばらく沈黙がある。

「整形外科は、ずっとそうだったんですかね」と院長は言った。声に、力はない。感情的に動揺しているというより、何年も抱えてきた疑念が数字で裏付けられた、そういう顔だ。整形外科拠点は固定費だけで月450万円超。患者数が伸びない構造のまま、内科の収益で穴を埋め続けている。損益分岐点を再計算すると、現状の患者数では到底届かない水準だということも、この段階で明確になった。

2か月目に入り、整形外科拠点の縮小シナリオの設計を始めた。「閉院」ではなく「縮小」にこだわった理由は、院長の意向だけではない。拠点を完全に閉じると、既存患者の転院対応・スタッフ全員の雇用整理・賃貸契約の解約違約金が一度に重なる。それを一気に処理できるキャッシュが、この時点では残っていない。段階的に縮小し、固定費を削りながら内科中核拠点に機能を集約する。そのシナリオが現実的だった。

並行して、スタッフ28名の人材マッピングを行った。「誰を残すか」ではなく、「縮小後の運営に必要な機能は何か」を先に整理し、その機能を担える人材を特定する順序で進める。感情で決めると後で崩れる。機能から逆算して優先順位をつけ、院長と一緒に確認した。

賃料交渉はこの時期に着手した。整形外科拠点の家主との交渉は、縮小の意向を正直に伝えた上で、一定期間の賃料減額を打診する形をとった。交渉の場には院長が同席し、条件の落とし所は院長が最終判断する。外から数字と論点を整理し、判断は院長が持つ。その役割分担は、最初から変えなかった。

3か月目、整形外科拠点の診療日数を週5日から週3日に縮小した。常勤医師1名を内科拠点に異動し、整形外科は非常勤対応に切り替える。スタッフは28名から17名体制に移行し、うち3名は雇用形態をパートに変更することで合意を得た。固定費は月ベースで約180万円の削減。まだ黒字ではない。ただ、損益分岐点との距離が初めて「見える範囲」に入った。

3か月目の終わりに院長が言った言葉は、短かった。

「なんか、久しぶりに数字を見る気になりました」

4か月目以降は、月次経営会議を軸に動いている。月次収支・患者数・人件費率の3つをKPIとして設定し、毎月同じフォーマットで院長と進捗を確認する。採用が必要な場面には面談に同席し、労務上の判断が必要な場面には社労士との橋渡しを担う。院長が一人で抱え込まなくていい体制を、月次のサイクルとして回している。縮小後の法人が、自走できる状態になるまで。

その後、何が変わったか(After)

支援開始から6か月。院長は今、月次の損益表を以前とは違う目で見ている。

拠点は2から1に集約した。整形外科の分院は閉じ、内科の中核拠点だけを残す。スタッフは28名から14名。退職を選んだスタッフには、できる限り丁寧に経緯を説明した。全員が納得したわけではない。それでも、雇用を守れた14名がいる。

数字の変化は、思ったより早く出た。固定費の圧縮だけで月間のコスト構造が大きく変わり、支援開始から約6か月で単月黒字の目処が立つ。賃料と人件費が収益を上回っていた構造が、ようやく逆転する。閉院・清算を選んでいれば、残務処理と違約金で数百万円規模の費用が発生していた。法人格を存続させたまま縮小したことで、そのコストを回避できる。

院長の日常も変わった。以前は2拠点の問題が同時に飛び込んでくる毎日で、頭の整理がつかない状態が続いていた。「なんというか、頭の中が常に火事みたいで」と院長は振り返る。今は1拠点に集中できる。月次の経営会議で数字を確認し、翌月の優先課題を決める。その繰り返しが、少しずつ手応えになっている。

意思決定の速さも戻ってきた。縮小再建の設計を一緒に考える過程で、院長自身が「撤退ではなく再出発」という判断軸を持てた。それが大きかった。迷いながら先送りしていた判断が、今は会議の場で決まる。

「もう畳むしかない、と思っていました。でも、残せるものがあった」

これから検討する方へ

「もう畳むしかない」と思った瞬間、選択肢は二つに見える。閉院か、継続か。だが、その二択で考えている限り、判断は止まりやすい。

実際、院長が最初に口にしたのも同じ言葉だった。「もう畳むしかない、と思っていました」。そこに第三者の目が入り、収益構造を拠点別・部門別に分解してみると、景色が変わる。赤字の原因が法人全体にあるのではなく、特定の拠点と固定費の構造にあると分かれば、「残せる部分」と「手放すべき部分」が見えてくる。

縮小再建は感情の問題ではない。構造の問題として扱うと、道筋は意外なほど具体的になる。あなたの法人でも、同じことが起きているのではないだろうか。先送りするほど、選択肢は狭くなる。判断の軸を一緒に持てる外部の目を、早めに入れてほしい。

私たちの視点

縮小再建は、感情の問題ではない。構造の問題だ。

「閉院か継続か」という二択で立ち止まっている間は、判断が動かない。まず収益と固定費を拠点別・部門別に分解する。残せる部分が見える。手放すべき部分も見える。その順番を、一人で抱え込まなくていい。

判断の軸を一緒に持てる外部の目を、早く入れるほど、選択肢は広がる。

同じ悩みに心当たりのある方は、再建のご相談から。まず現状を整理するところから始めます。

この記事を書いた人

ミレニアム株式会社 経営支援チーム

医療法人・クリニックを中心に、経営改善、組織設計、人材定着、財務改善、マーケティング支援を行う専門チームです。

院長・理事長への業務集中、スタッフ退職、採用難、評価制度の未整備、事業承継、集患・広報など、医療機関に特有の経営課題に対し、現場の実態と経営構造の両面から課題を整理し、改善策を提案しています。

本メディアの記事は、医療法人経営やクリニック運営に関する実務知見をもとに、経営者が意思決定しやすい情報提供を目的として監修しています。